生殖機能を司る視床下部のゴナドトロピン放出ホルモン(LHRHまたはGnRH)産生ニューロンは、脳外の鼻プラコードで発生し、脳内へ移動して中隔-視索前野-視床下部系へと分化する。本研究では、脳内に進入したLHRHニューロンが中隔・視索前野を中心とする領域にどのようなメカニズムによって移動し定着するのかを知る手がかりを得るために、中隔LHRHニューロンと視索前野LHRHニューロンの定着部位の違いは誕生日時の違いから生じる可能性について検証した。また、移動に関与する分子候補の探索のために、移動経路におけるガイダンス分子の発現を調べた。 フロモデオキシウリジン(BrdU)による誕生日時の標識実験から、E2.5生まれのLHRHニューロンは中隔-視索前野の全領域に分布するのに対し、E5.5生まれのLHRHニューロンは腹側の視索前野には分布しないことが判明した。E2.5生まれとE5.5生まれのLHRHニューロン数を領域別にカウントする定量化実験は、LHRH抗体の免疫染色性の低下など技術的な問題により統計可能なデータが得られず、継続中である。 E5.5生まれのLHRHニューロンが腹側の視索前野に分布しない理由のひとつとして、前脳背側の中隔から腹側方向への移動が阻害された可能性が考えられる。ラミニン様構造を持つ液性分子ネトリンの発現をin situ hybridizationによって調べた結果、最終目的地である前脳腹側の視床下部領域に強い発現を観察し、ネトリンが脳内におけるLHRHニューロンの移動に関与する可能性を得た。この結果は国内における解剖学会と神経科学学会にて発表された。
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