SNAREタンパク質及びシナーフィン/コンプレキシン、nSec1/Munc18-1、snapなどのサイトゾルタンパク質は神経終末における神経伝達物質放出に密接に関与することがわかっているが、放出に伴うこれらのタンパク質の挙動については不明な点が多い。ショウジョウバエ3齢幼虫の神経筋接合部の神経終末はサイズがきわめて大きく、神経終末内の分子を蛍光で観察することが可能である。本研究ではこの系を用いて、シナプス小胞開口放出に伴う上記タンパク質の動態を追究した。高K^+処理による神経終末の脱分極で神経伝達物質放出を惹起し、それに伴う上記タンパク質の動態を標本の固定後、各タンパク質に特異的な抗体を用いた免疫蛍光により観察した。SNAREタンパク質のシンタキシン及びSNAP-25は主としてシナプス前膜に存在し、その局在は変化しなかった。rop(nSec1/Munc18-1)及びsnapは細胞質全体に存在しており、その局在も変化がなかった。しかし、シナーフィンの局在は神経伝達物質放出に伴って明確に変化した。すなわち、静止状態では細胞膜の内縁近くに存在するが、放出に伴って細胞質全体に広がった。脱分極を停止するとゆっくりと元の局在に復帰した。また、エンドサイトーシスがある温度以上では抑制されるシビレ突然変異体を用いた実験で、エンドサイトーシスが完全に抑制されてもシナーフィンの局在変化は野性型と全く同様に観察された。したがってシナーフィン局在の変化はシナプス小胞の開口放出に伴う現象であることがわかった。この局在変化はカゼインキナーゼII(CKII)の特異的阻害剤存在下では完全に抑制された。しかし、A-キナーゼやC-キナーゼの阻害剤は無効であった。したがって、シナーフィンの局在変化にはCKIIによるタンパク質リン酸化が関係していると考えられる。
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