本申請の研究の基礎を築くため脂質2重層膜内タンパク質の挙動の解析を実施した。電位異存性Kチャンネルのgating modifierとして知られるhanatoxinについて、DPPC122分子と3000の水分子を含む系において、さまざまな初期配置から2-10ns程度の分子動力学計算を行なったところ、シミュレーション最終段階での全エネルギーのアンサンブル平均の値は、比較的深い位置にhanatoxinが存在するときに最も低くなった。それはhanatoxinと膜の重心間距離が0.7nm位の場合であり、このとき2重層の上層は内側へ向かって急なメニスカスを形成し、また下層の脂質もhanatoxin近傍では上方へ移動しやすく、これにより膜が局所的に薄くなる傾向が見られた。一方、細胞膜の外面に接触するような配置ではとくに低いエネルギーは示さなかった。同様の所見はGROMACSとCharmmという異なった分子力場で共通に認められた。hanatoxinの配向についても同様に検討したが、異なった配向間でのエネルギーのレベルは明確な差を示さなかったけれども、10nsのシミュレーションの間に配向が変化して、次第に以前のSwartzらの論文で予想された配向、すなわち疎水性残基の突起が下方を向く配向に近づいていく傾向が見られた。同様の解析をGramicidinについても行なった。我々はこの他、スフィンゴミエリン、コレステロールによるラフトのシミュレーション系を確立した。また、GROMACSの便利な解析ツールを利用できるようにCharmmパラメータをGROMACSパッケージに移植した。
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