当初の研究計画で日指したのはシナプス前終末のPIP2と相互作用する機能分子のダイナミクスを調べるため分子動力学を応用しようというものであった。GromacsとNAMDという代表的パッケージを並列計算で使用し、ホスファチジルイノシトール系の分子軌道計算も試みたが、リン酸基の強い部分電荷により、分子dynamicsの解析がリーズナブルな時間内には実現できなかった。しかし、電位依存性チヤネルの電位センサー毒であるハナトキシンと、脂質二重膜の相互作用研究において、ハナトキシンが脂質膜に親和性を示すのみならず、脂質膜の内業方向に移動することを見出した。またシミュレーション開始後200ps程度で著しい膜変形、つまりouter leafletの内側への著しい湾曲、メニスカス形成を見出した。 また、本研究の過程で、ペプチドに働く中間揚力を計算できることを示した。このとき脂質膜の変形を抑制するため、脂質分子のグリセロル骨格の炭素原子の一部にハーモニック拘束を課することの有効性を見出した。 さらに、個々のシミュレーション内でのポテンシャルエネルギーの平均値によって、ある程度分子の平衡状態における分配が推定できることを示した。さらにハナトキシンと相同性を有するペプチドファミリーに属するGsMTx4についても、同様の膜変形を生じる能力があることを明らかにした。 また、両ペプチドについて、膜表面での結合と、膜内部へ侵入し、画業と相互作用する深い結合の2つの結合様式が存在することを明らかにした。
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