変異原性を有する化学物質、あるいは変異原性前駆物質を活性化させる化学物質は、胎児期の脳発達に影響を及ぼし、生後の行動異常を惹起させる可能性が考えられる。本研究では、変異原性を有する化学物質を母体に暴露した場合、次世代の行動にどのような異常を引き起こすかを詳細に追究した。 妊娠9-15日の母ラットに変異原性物質である5-bromo-2'-deoxyuridine (BrdU)を50mg/kg腹腔内投与し、産まれた子ラット(BrdU-F1)が4-5週齢の時に実験に供した。なお溶媒(carboxymethyl cellulose)を妊娠ラットに投与して産まれた子ラット(CMC-F1)をコントロールとした。 BrdU-F1は、オープンフィールド、夜間のホームケージにおいて多動性を示すこと、高架式十字迷路にて低不安を示すこと、Y迷路試験、水迷路試験、8方向迷路試験において記憶障害を示すことが明らかとなった。さらに、水浸ストレスによる血中コルチコステロン上昇は抑制されなかったものの、恐怖条件付けストレス試験において、ストレスに対する反応は減弱していた。 ドパミン取り込み阻害薬であるメチルフェニデートは、BrdU-F1の運動量増加を低用量から更に促進させた。セロトニン、ノルアドレナリンの取り込み阻害薬であるパロキセチンとデシプラミンは、BrdU-F1の運動量増加・低不安を抑制した。 以上の結果より、変異原性物質BrdUの胎生期暴露により子ラットに多動性、低不安、記憶障害を惹起し、これらにはセロトニン、ノルアドレナリン神経系の異常が関与していることが明らかになった。さらにprepluse inhibitionが有意に抑制されていたことより、統合失調症の病態を呈している可能性が明らかとなった。
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