本研究の目的は、脊椎動物の中枢神経系で最も豊富に存在する電位依存性P/Q型Ca^<2+>チャンネルに対する蛋白リン酸化酵素A(PKA)による活性調節の、in vivoにおける生理的意義と神経発生における役割を明らかにすることである。このため、α1AサブユニットC末端に存在し、PKAによるP/Q型チャンネル活性調節に必須のスレオニン残基(Thr ; Thr-PKAと命名)をアラニン(Ala)に置換したノックインマウスの作製を行った。1.Thr-PKAが位置するexon(exon-Thr*と命名)を含む核酸長16kbのα1Aサブユニット遺伝子を、マウスゲノムライブラリーからクローン化し、exon-intron構造を決定した。2.大腸菌における相同組換え法を樹立し、ターゲティングベクターを構築した。即ち、Thr-PKAをAlaに置換し、Thr-PKAが位置するexonに隣接する上流intronにloxP-STOP(transcriptional/translational stop cassette)-NEO(相同組換えマーカーのneo遺伝子発現ユニット)-loxPを挿入し、このゲノムクローンの5'端に非相同組換えマーカーのtk遺伝子発現ユニットを組み換えた。3.このターゲティングベクターを用いて、250個のES細胞中15個に相同組換えを確認した。このES細胞では、loxP間のSTOP-NEO配列が存在するときにはα1AサブユニットC末端が欠損し、loxP間が欠失するとThr-Ala置換が生じる。4.そのため、これらの相同組換えを起こしたES細胞にCre recombinaseを導入し、上記loxP間が欠失したES細胞を選別した。5.以上のES細胞をマウス胚盤胞に微量注入し、キメラマウスを現在作製中である。使用したES細胞はY染色体をもつ雄の細胞であるため、一部の雄のキメラマウスは正常雌マウスとかけ合わせ、毛色によりヘテロ接合型マウスを選別している。
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