研究課題
痛みを伝える一次求心性線維は脊髄後角浅層に終末する。この一次シナプスは可塑的で、その長期増強がある種の痛覚過敏に関与すると考えられている。我々は、電位感受性色素でラット脊髄横断切片全体を染色し、後角での神経興奮伝播を可視化し可塑性などを調べてきた。我々は今までに、条件刺激でサイレントだったシナプス後細胞が目覚めると共に、サイレントだった前終末が発火をし始めることを明らかにし、さらに、一酸化窒素NOの介在も明らかにした。本研究では、昨年度には長期増強のシナプス前メカニズムを明らかにすることを目的として、まず、電位のイメージングと同時にNOの蛍光イメージングを行うことを試みた。同一切片をNO色素と電位色素の両方で染色し同時に光計測を行った結果、条件刺激時のNOの上昇と長期増強の程度に強い相関が見られた。また、グリア細胞の代謝阻害下では、長期増強とNOの上昇が共に生じなかったことから、グリアからのNOにより長期増強が誘導されている可能性が示された。以上のことから、今年度には、グリア細胞が長期増強に関与しているのか、特にATPを介したメカニズムが存在するのかについて調べた。その結果、P2X受容体を介した神経-グリア細胞の相互作用により、長期増強が誘発されることを明らかにした。また、求心性線維終末バニロイド受容体の活性化によりATP依存的にシナプス伝達が抑制されることも示した。さらに、人工神経回路網における自己組織的構造化学習についても検討した。今後、種々のモデル動物を用いるなどして検討を行う必要があると考えられる。
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