痛みを伝える一次求心性線維は脊髄後角浅層に終末する。この一次シナプスは可塑的で、その長期増強が痛覚過敏に関与する。我々は、電位色素でラット脊髄横断切片全体を染色し、後角での神経興奮伝播を可視化する方法を用いてきた。最近、さらに2つの新しい方法に成功した。(1)後根から入力線維を順行染色しシナプス前終末の興奮を可視化する方法と、(2)投射細胞を脳幹等から逆行染色しシナプス後細胞の興奮を可視化する方法である。予備実験では、サイレントだったシナプス後細胞が条件刺激で目覚めると共に、サイレントだった前終末が発火を始めた。さらに、一酸化窒素NOの介在も明らかになった。これは、条件刺激で前終末の興奮性が変化し、条件刺激前に遮断されていた終末への伝導が解除された可能性を示す。 本研究ではまず、サイレントだったシナプス後細胞が条件刺激で目覚める機序を、順行染色と逆行染色による電位イメージングで明らかにすることを試みた。その結果、条件刺激によって、サイレントだった前終末が発火を始めることが明確になり、一酸化窒素NOとグリア細胞の介在も明確になった。 次に、長期増強のシナプス前機序を明らかにするため、電位イメージングと同時にNOの蛍光イメージングを行うことを試みた。同一切片をNO色素と電位色素の両方で染色し同時に光計測を行った結果、条件刺激時のNOの上昇と長期増強の程度に強い相関が見られた。また、グリア細胞の代謝阻害下では、長期増強とNOの上昇が共に生じなかったことから、グリアからのNOで長期増強が誘導されている可能性が示された。 さらに、グリア細胞の長期増強への関与、特にATPを介したメカニズムが存在するのかについて調べた。その結果、P2X受容体を介した神経-グリア細胞の相互作用により、長期増強が誘発されることを明らかにした。また、求心性線維終末バニロイド受容体の活性化によりATP依存的にシナプス伝達が抑制されることを示した。
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