研究課題
基盤研究(C)
視覚マスキング現象であるメタコントラストについて、ヒトを被験者とする心理物理実験および麻酔・非動化したネコの大脳皮質一次視覚野(V1)ニューロン活動の記録実験を行った。これにより初期視覚系における時空間特性の異なる並列情報処理経路間の相互作用の実態及びメカニズムを解析した。1)ヒト心理実験:被験者の視野に正弦波縞の円形刺激(ターゲット)を呈示し、その周囲に同時又は少し遅れて正弦波縞のアニュラス(マスク)を呈示したときのターゲットの知覚がマスクの図形特徴(縞の方位、空間周波数)に依存してどのように妨害されるかを検討した。その結果、処理速度が速く、図形特徴に特異性が示さず、コントラスト感度の高いマスク効果と、処理速度が遅く、図形特徴に特異性を示し、コントラスト感度の低いマスク効果が観察された。これらの結果は霊長類の視覚並列情報処理経路として知られる大細胞系および小細胞系の特性と部分的に対応すると考えられた。2)ネコ一次視覚野のニューロン活動:ヒトで用いたのと同様の正弦波縞刺激をネコV1ニューロンの受容野及びその周囲に短時間呈示したときに、受容野周囲刺激がニューロン応答をどのように修飾するのかを解析した。2つの刺激を同時に呈示した場合には早いタイミングで、低空間周波数のマスク刺激による抑制性修飾が見られ、時間経過と共に有効周波数が高い側にシフトすることが観察された。また受容野周囲を8分割して、マスク刺激をそのうちの2カ所に呈示する実験を行ったところ、受容野のend方向とside方向のいずれに最大抑制を生じる場所があるかはニューロンによって異なったが、2カ所のみの刺激で、受容野周囲全体を刺激したのと同等の抑制性修飾を示すニューロンが多数観察された。以上の結果は、種を越えて並列視覚情報処理経路間の相互作用が、初期視覚系の情報処理に寄与していることを示している。
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