哺乳動物中枢神経細胞には、L、N、P、Q、RとT型カルシウムチャネルが存在する。中枢神経系の微小シナプス前神経終末部では、活動電位(インパルス)により電位依存性カルシウムチャネルが活性化されるが、特にNとP/Q型カルシウムチャネルを介して流入するカルシウムイオンが直接的に神経伝達物質の放出を誘発する。この神経終末部にはL型カルシウムチャネルも存在するが、L型チャネルを介して流入するカルシウムイオンは自発性の神経伝達物質の遊離を増加させるものの、インパルスによる神経伝達物質放出に対しては直接的な関与がないことから、これまでその役割は十分には解明されていない。本年度は、機能的な微小シナプス前神経終末部が付着した単一ニューロン(シナプスブートン標本)を用いて、微小シナプス前神経終末部におけるL型カルシウムチャネルとリアノジン受容体が共役して神経伝達物質の放出を促進するメカニズムとその生理学的意義を明らかにすることを目的として研究を遂行した。2週齢ラットの脊髄後角から作成したシナプスブートン標本にホールセルパッチ記録法を適用して記録した自発性抑制性シナプス後電流(sIPSC)は、細胞外無カルシウム条件下でも終末部の脱分極刺激(高カリウム刺激や4-AP刺激)で、その頻度が増加した。この増強作用はL型カルシウムチャネル拮抗薬のニフェジピンおよびリアノジンで抑制された。膜透過性カルシウムキレート剤のBAPTA-AM及びCaMKII拮抗薬のKN-93によっても高カリウム刺激によるsIPSCの増強が著明に抑制されたことから、この応答にカルモジュリンやCaMKIIが関与していることが明らかとなった。以上の結果から、神経終末部の脱分極によってカルシウム貯蔵部位からのカルシウム放出が誘発され、それにより伝達物質の放出が増強されることがわかった。
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