研究課題
基盤研究(C)
神経細胞の機能と形態を保持するために必要なエネルギーは、ミトコンドリアによって供給される。神経細胞は軸索を持つゆえ、エネルギー供給のためには、ミトコンドリアは軸索輸送により運ばれなければならない。軸索内におけるミトコンドリアの輸送が破綻すると、様々な病態が引き起こされる。特に、軸索変性はミトコンドリア輸送障害と深く関与している。ミトコンドリアは酸化呼吸によってATPを供給する際、フリーラジカルを大量に放出する。フリーラジカルである一酸化窒素は、細胞に対して毒性を持ち、ミトコンドリアの酵素であるスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)によって除去されている。本研究では、ミトコンドリアの軸索内輸送動態がフリーラジカルによってどのような影響を受けるのかについて調べた。実験は、ビデオ増感顕微鏡を用いて行った。一酸化窒素供与薬であるNOC18は、順行性・逆行性のミトコンドリア軸索輸送を抑制した。SOD阻害薬であるdiethyldithio carbamateもミトコンドリア輸送を抑制し、軸索変性を起こさせた。一酸化窒素消去薬であるPTIOがミトコンドリア軸索輸送を促進させたことから、内因性の一酸化窒素は常時、ミトコンドリア軸索輸送を抑制していると考えられる。一方、ヒドロキシルラジカルの消去薬であるdimethyl thioureaでは変化がみられなかったことから、ヒドロキシルラジカルは軸索輸送障害に関与していないことが示唆された。これは、ヒドロキシルラジカルはわずかマイクロ秒(100万分の1秒)しか存在しない)ためであると考えられる。本研究より、内因性、外因性のフリーラジカルは、ミトコンドリア軸索輸送を抑制することが示された。ミトコンドリア軸索輸送の障害は軸索変性に至ることから、異常に増加したフリーラジカルはミトコンドリア軸索輸送を障害し、神経細胞に変性を起こす可能性が示唆された。
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