本研究の目的は、野生マウス集団の遺伝資源から有用な変異遺伝子を発掘し、新しい自然発症モデルマウスの系統開発とその特性及び遺伝解析を行うことである。これまでにフィリピン産野生マウスより新たな近交系(CASP)を確立し、また既存の近交系マウスとの交配からいくつかのミュータントを発見し系統育成を行ってきた。研究期間内に得られた成果は以下の通りである。野生マウス由来近交系の遺伝特性の検索について、マイクロサテライトマーカーによる多型解析を行った結果、既存の近交系とは大きく異なりミュータント系統の遺伝解析に有用なマーカーとなることを確認した。ミュータント系統の育成においては、インシュリン非依存性糖尿病モデルとして選抜近親交配により安定した高血糖の系統が近交系として確立された。この近交系と既存の近交系との交配パネルを作製し、これから高血糖因子の遺伝解析を行う予定である。形態形成異常マウスはコンジェニック系統として育成してきており、近交系化を目標として今後も引き続けて進める。これらの系統は特性の調査を行い、これまでに報告されていない新規のミュータントであることが予測された。体重変異系統では、マッピングされたマウスの体重や成長に関するいくつかの量的形質遺伝子座(QTLs)について、コンジェニック系統の作出による機能解析と遺伝子の絞込みが行われた。これらのQTLsは新規の体重差に影響する遺伝子としてその特性と発現様式を報告した。亜種間交雑リコンビナント近交系(RI系統)の開発育成については、CASP系統とBALB/cA系統との交雑から作出を始め、正逆交配のF1ペアからそれぞれ15以上のラインを育成してきた。しかしF数世代からF十数世代で繁殖力の低下するラインが多く、最終的に合計20ライン以上を近交系として確立する目標が困難な状況となり、この原因追究と対策が今後の検討課題である。
|