本研究は、先天性中枢性呼吸疾患の原因遺伝子およびそのメカニズムを明らかにする目的で、出生前後に呼吸障害で死亡する遺伝子操作マウスについて進めている。本年度は、まず呼吸異常を分類する目的で、1)新生マウスまたは蘇生させた胎生後期(E18.5)マウスにおけるホールボディープレチスモグラフを用いたin vivo解析、2)新生マウスまたは胎生後期のマウスの摘出脳標本を用いたin vitroの電気生理学的解析、および、3)同標本におけるvoltage-sensitive dyeを用いた光学的測定法を検討した。1)では外科的に得られたE18.5のマウスにおいても、蘇生数時間後に新生マウスと同様に規則正しい呼吸パターンが認められたことより、マウスモデルにおける呼吸異常を早い段階で判定できることが分かった。2)については既に鬼丸らにより方法が確立し、呼吸中枢(延髄腹外側;VLM)におけるプレ吸息性ニューロン(Pre-I)、吸息性ニューロン(Insp)を介してC4の呼吸活動が伝達されることを報告しているが、3)の光学的測定法により可視的に、より簡便に呼吸中枢神経回路の異常が調べられることが分かった。 そこで、生後24時間以内に中枢性呼吸異常により死亡することを既に報告しているホメオドメイン蛋白質Tlx3のKOマウス、およびTlx3とともにVLMに局在の見られるホメオドメイン蛋白質Pbx3のKOマウス(生後2時間以内に死亡する)について検討した。その結果、両KOマウスともに中枢性低換気症を示しことが分かったが、呼吸異常では無呼吸の頻度や呼吸間隔などに差が認められ、また呼吸中枢神経回路の異常にも違いが認められた。現在、その機構をさらに検討するとともに、呼吸中枢神経回路の発達と調節に関与する他の遺伝子の検索を計画している。
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