先天性中枢性呼吸疾患の原因遺伝子およびそのメカニズムを明らかにする目的で、出生前後に呼吸障害で死亡する遺伝子操作マウスについて解析を進めた。解析は、新生マウスまたは蘇生後の胎生後期マウスについて、プレチスモグラフによるin vivo解析、摘出脳標本を用いたin vitroの電気生理学的解析、および、同標本のvoltage-sensitive dyeを用いた光学的測定法による解析の3つの方法により呼吸異常を検討した。これまで、生後24時間以内に呼吸異常を示す8系統のマウスについて解析を続けてきたが、その障害機構に同じものがなく、改めて呼吸障害の複雑さを痛感した。呼吸障害について、我々は(1)呼吸中枢のある延髄の腹外側部(VLM)の神経回路の異常、(2)橋、大脳などにおける調節系の異常、(3)末梢の呼吸器の機能異常の3つに分類して解析した。(1)Tlx3KOマウスでは、グルタミン作動性ニューロン支配が過剰になることよる中枢性低換気障害を引き起こすことを明らかにしたが、Tlx3とヘテロダイマーを形成するPbx3のKOマウスでは別の機構により呼吸障害を起こすことが分かった。さらに、不規則な呼吸から24時間以内に死亡するDSCAM(Downsyndrome cell adhesion molecule)KOマウスも呼吸中枢の異常があることが分かった。(2)また、DSCAMは不規則な呼吸がエーテル麻酔により規則正しい呼吸パターンに戻ることから、大脳などからの調節機構にも影響があることが示唆された。PACAP(Pituitary adenylate cyclase-activatingpolypeptide)特異的受容体PAC1のTgマウスも麻酔により規則正しい呼吸パターンに戻った例であり、POにおいて大脳からの強い抑制が示唆された。(3)一方、チアノーゼを呈して死亡するホスホリパーゼA2(V型)Tgマウスでは、中枢性異常はなく、肺サーファクタントの異常による肺形成の不全であることが分かった。以上の研究から、多岐に亘る呼吸障害のメカニズムを再認識したが、人の呼吸障害に於いても同様なことが考えられるため、今後も一つ一つの表現型を解析して行くことが重要と考える。
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