先天性中枢性呼吸疾患の原因遺伝子及びそのメカニズムを明らかにする目的で、出生前後に呼吸障害で死亡する遺伝子操作マウスについて解析を行なった。方法は、新生マウスまたは胎生後期(E18.5)マウスについて、ホールボディプレチスモグラフ、摘出脳標本を用いた電気生理学的解析、およびvoltage-sensitive dyeによる光学的測定法により中枢性呼吸異常を検討した。我々は、ホメオボックス蛋白質Tlx3(Rnx)の欠損マウスが、中枢性低換気障害により生後24時間以内に死亡することを2000年に報告している。本研究ではTlx3蛋白質がグルタミン作動性ニューロンのセレクターとして働くこと、そのためTlx3 KOマウスでは呼吸中枢においてGABA作動性ニューロンが有意になるため、呼吸障害を誘導することを明らかにした。また、Tlx3とヘテロダイマーを形成し、呼吸中枢の存在する延髄外側部(VLM)に局在するPbx3においても、その欠損マウスは生後24時間以内に呼吸障害で死亡する。そこで、同様に解析した結果、Pbx3 KOマウスは呼吸中枢の異常が認められたが、GABA_A阻害剤によって神経回路の回復が見られず、Tlx3 KOマウスとは異なる機構であることが示唆された。さらに、不規則な呼吸により出生後24時間以内に死亡するDSCAM(Down syndrome cell adhesion molecule)のKOマウスにおいても呼吸中枢性の異常が認められた。しかし、呼吸中枢における発火や呼吸パターンは、Tlx3およびPbx3 KOマウスとも異なり、呼吸中枢性の異常に多様性が示された。一方、本研究で呼吸中枢は正常であるが、胎生呼吸から肺性呼吸へ移行する過程で、呼吸調節系の異常、また肺胞形成の異常で生後24時間以内に死亡する遺伝子組換えマウスも見出した。本研究では、ヒトの先天性呼吸疾患の原因遺伝子の特定にはまだ至っていないが、本アプローチは呼吸異常を分子レベルで解明する近道であることが示された。
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