研究概要 |
医療技術革新およびデバイス開発を進める上で,生体の力学的性質を知ることは極めて重要である.本研究は設定された医療デバイス開発を最終目標とし,その開発に必要な生体軟組織の様々な力学条件に対する力学的反応を詳細に調べた.また,計算シミュレーション技術を駆使し,実験では測定困難な物性値の推定,デバイス開発への予備試験を行った.さらに小型引張り試験機の開発も行った. 軟組織には,新鮮な豚の肝臓および心臓を用い,巨視的な基本力学特性について以下の3項目を調べた. 1.肝臓および心膜の機械的性質およびリラクゼーション特性 肝臓の強度に異方性はなく,屠殺後12時間以内であれば生理食塩水の有無に関係なくヤング率および降伏応力はほぼ一定である.非線形挙動を示す応力-ひずみ曲線における応力勾配(ヤング率)変化を一次式で近似でき,また,その式は心内膜の単軸引張り試験に対しても適用できる.肝臓組織の力学的な損傷に対して降伏ひずみを評価パラメータとすることが有効である. 2.豚肝臓の冷却特性 基礎実験に基づきFEM解析により,豚肝臓の熱物性値の温度依存性,肝細胞生死依存性,血流量(生理食塩水の流量)依存性を推定することができた.また,血管内流体から血管壁への熱伝達率の算出により,血管内に流れる液体から肝臓への熱移動を推定するための基礎データが得られた.これらの推定値を用いて実際の体内にある肝臓を想定した冷却解析により,切離手術にとって最適な冷却針の深さ方向の温度分布が求まり,冷却針設計データが得られるようになった. 3.デバイスの最適形状と材料選択 本研究グループから申請した特許に基づき,デバイス開発の面からデバイス形状および材料の最適条件について検討進めた.解析により各々のデバイス寸法および材料のパラメータについて血管減少率に対する傾向を把握することができた.血液と同等の動粘度を有する溶液で逆流量の測定を行なうと減少率λ=70%付近から急激に減り始め,90%付近で逆流は止まることが確認された.
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