研究概要 |
1.はじめに:血管や心臓内で生じた血栓は、一部が剥離して栓子となって血管内を飛来し、脳梗塞や肺塞栓を引き起こすことが多い。本研究では、非侵襲的に長時間の測定が可能である電気インピーダンス法を用いた栓子検出法を確立することを最終目的としている。栓子のin vivo検出を成功させるためには、全血と栓子のインピーダンス周波数特性の差を明確にし、最も検出感度の高い周波数を決定する必要がある。そこで今年度の研究では、全血内を通過する栓子によるインピーダンス変化量を理論的に求め、全血と凝固血液のインピーダンス周波数特性を測定し、求めた理論式を用いて栓子検出に有用な測定周波数を決定した。 2.実験方法:実際に頸部から頸動脈中の栓子を検出する条件を設定し、栓子通過時のインピーダンス変化量をゲゼロビッツの数値解析理論(GESELOWITZ, D.B.,1971)を用いて計算した。その結果、ある均一な導電率σである全血中を、導電率の異なる球体(栓子)が一定の深さdで通過した時の最大インピーダンス変化量ΔZは、全血と栓子の導電率差Δgと栓子の体積に比例し、これにより、全血の導電率σと全血と栓子の導電率差Δgが明確になれば、栓子の体積や深さに応じたインピーダンス変化量が計算で求められることがわかった。そこで、全血の導電率σおよび、全血と栓子の導電率差Δgの周波数特性を求めるために、同じ豚から採取した血液に抗凝固剤(クエン酸ナトリウム)を付加した全血と、付加せず凝固させた凝固血液をそれぞれ作成し、インピダンス周波数特性を測定した。両側面にアルミ板(70×95mm)を設置したアクリルBOX(100×100×50mm)に、採取後8時間以内の全血と凝固血液をそれぞれ充填して37℃の高温漕に設置した。次に、Agilent社製4285A(付加電流10mArms 16回平均)を用いて100kHz〜30MHzにおけるインピーダンス周波数特性を測定し、全血・凝固血液の導電率、および導電率差と位相差をそれぞれ求めた。測定は、ヘマトクリット値をあらかじめ測定した10頭分の豚血液に対して行った。 3.結果及び考察:測定した全血・凝固血液の導電率差Δgは、100〜800kHzまでほぼ一定で大きく、約4.3mS/cmであった。それ以上の周波数では、Δgが減少した。一方、全血の導電率σにおける測定結果では、100kHzにおいて最小値7.7mS/cmを示し、それ以上で増加することがわかった。理論式より、導電率差Δgが最大かつ導電率σが最小の時、最も大きなインピーダンス変化量ΔZが生じるので、100kHzが栓子検出に適した測定周波数であるといえる。加えて、全血のヘマトクリット値と導電率差の相関係数は、R=0.04と極めて小さかった。位相差では、測定周波数2MHzにおいて最大位相差-13.5度であった。このような高周波数における位相差を同時に測定することで、気泡栓子との識別や検出精度向上が可能となると考えられる。今後はこの結果を基にして開発回路の条件設定を行い、実際のin vivo検出を試みる。
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