研究概要 |
20-hydroxyeicosatetraenoic acid(20-HETE)は、チトクロームP-450 4A(CYP4A)酵素によるアラキドン酸ω水酸化物質であり、各種臓器の血行動態、腎尿細管イオン輸送、血圧調節、糸球体蛋白透過性、血管新生等において重要な役割を担っている。本研究グループはこれまで長期的運動による腎保護作用を明らかにしてきたが、さらにその機序としてのアラキドン酸ω水酸化の意義を明らかにするため、腎20-HETE産生への長期的運動による影響について検討した。5週齢の雄Wistar-Kyotoラットを対照群および運動群に分け、運動群にはトレッドミル運動(25m/分,1時間,5回/週)を8週間施行した。腎皮質および肝ミクロゾームをアラキドン酸とインキュベートし、アラキドン酸代謝物をHPLCにより分離、定量した。腎皮質20-HETE産生は運動群で対照群に比べて有意に亢進していた(242±16vs.119±4pmol/min/mg protein,P<0.05)。また、様々なCYP酵素ファミリーによるアラキドン酸代謝物質であるepoxyeicosatrienoic acid(EET)の産生は両群間で有意な差はなかった(46±1vs.55±5pmol/min/mg protein)。 一方、肝20-HETE産生は両群間で有意な差はなかったが(111±10vs.105±3pmol/min/mg protein)、肝EET産生は運動群で対照群に比べて有意に減弱していた(52±5vs.81±12pmol/min/mg protein,P<0.05)。以上の結果から、長期的運動により20-HETE産生は腎特異的に増強し、CYP酵素ファミリーの中でもCYP4A酵素に特異的な誘導が示唆された。この長期的運動による腎20-HETE産生の増強が腎保護に働いている可能性がある。
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