人が集まる場所での公共放送用拡声装置として、情報弱者である補聴器を使用しない軽・中度難聴者の聞き取りを改善するための聴取補助機能を有する装置の開発を目指している。平成17年度は、健聴者に違和感を与えず、軽・中度難聴者の聞き取りを改善する聴取補助機能が効果的に動作することを確認すると共に、その音質を改善するため人が感覚的に評価する物理的要素を解析する手法の開発を行った。 1.市販の最新機器の聴取補助処理した音声と本研究で開発した聴取補助装置の音声とを比較試聴することで性能の確認を行った。ニュース番組の映像と音声を取り込んでオリジナル音声とし、市販の装置で処理した音声と本研究で開発した振幅圧伸法で処理した音声とを準備する。これらが健聴者用の評価音源である。次いで中度難聴者の聴力に合わせてそれぞれの音声を模擬難聴処理する。音量を合わせて比較試聴すると、市販の装置では難聴者の聞き取りに関して改善がほとんど認められないのに対し、振幅圧伸処理では明らかに改善されることを確認した。また同席する健聴者にとっても、うるささが低減され、効果があることを確認した。 2.聴取補助処理では小さな音ほど増幅率を高めているので、健聴者に違和感を与えがちである。そこで小さな音と人の感覚的な評価の関係を調べるための非線形音質処理法を開発した。それは音質調整する周波数帯域を抜き出し、所定の振幅より小さな信号を増幅または減衰させる方法であり、僅かな音の違いが感覚的評価に及ぼす影響を調べることが出来る。 このように、本研究の聴取補助装置は最新の市販製品よりも優れた性能を有することを確認した。また、新たに開発した音質調整方法は感覚的評価に関する知見を得るための有効な手法となることが期待される。
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