研究課題
基盤研究(C)
本研究では、情報弱者である軽・中度難聴者の聞き取りを改善し、同席する健聴者の違和感を抑制する聴取補助装置の開発を目指した。最新のデジタル補聴器では自動利得調整回路を用いているが、その方法では環境音が変動するので健聴者は不快と感じ、聴取補助装置には使えない。そこで本研究では音声信号の周波数帯域を分割し、帯域毎に振幅を非線形増幅してフィルタで歪みを除去し、加え合わせて出力する方法を用いた。ここで、非線形増幅は入力信号をv、出力信号をwとするとき、c、v_c、nを定数としてw=sgn(v)c(|v|/v_c)^nで処理することで行っている。聴取補助装置のパラメータを変化させて男声・女声アナウンサーの音声を処理し、試聴評価試験を繰り返すことにより以下の結果を明らかにした。1.健聴者が不快に感じない範囲で、軽・中度難聴者の聞き取りを改善することが可能である。2.本研究で開発した方法で聴取補助処理した音声は市販の最新の聴取補助装置で処理した音声に比べ難聴者の聞き取りを改善する効果が高く、かつ同時に聴取する健聴者にとっても、うるささが低減される効果がある。3.聴取補助処理を応用すると、所定の振幅より小さな信号を増幅または減衰させることが出来るので、僅かな音の違いが感覚的評価に及ぼす影響を調べることが出来る。4.本研究の聴取補助処理はデータ処理量が多い欠点を有しているが、最新のデジタル信号処理素子を使えば実時間処理が可能である。このように、本研究の聴取補助装置は最新の市販製品よりも優れた性能を有することを確認した。また、本研究で開発した音質調整方法は感覚的評価に関する知見を得るための有効な手法となることが期待される。
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日本福祉工学会誌 8.1(印刷中)
Journal of The Japan Society for Welfare Engineering Vol.8, No.1(in print)