研究概要 |
視覚対象が10度右側にシフトして見えるプリズム眼鏡を,Rossettiら(1998)に準拠して作成した.本研究ではレンズをプラスチック製としたため,通常の眼鏡フレームのサイズで作成しても,眼鏡総重量を30グラムに抑えられた.プリズムの大型化によって周辺から入る視覚情報の影響が減少したため,ゴーグルタイプは不要と考えた.プリズム眼鏡をかけた状態では,身体正面から左方10度にある視標は正面に見えるが,それに指で到達するには10度左方への運動が必要となる.この状態で標的を右示指で素早く正確に指し示す動作を1クール50回行った.健常人はプリズム眼鏡をかけると違和感が強いが,半側空間無視(以下,無視)患者は不快感を訴えることなく1クールを達成できた.この後,正面の指標を指し示して左へ到達運動がずれることで順応の成立を確認した.対象とした4例の無視患者では1クールで十分な順応が得られた.3例にプリズム順応後の無視症状の改善がみられ,そのうち1例(症例SK)で改善が持続した.症例SKでは6ヶ月間,中〜重度の無視が続いていたが,1回のプリズム順応を実施した翌日からBIT行動性無視検査(BIT)の探索課題である3つの抹消試験成績が著しく改善し翌月まで持続した(線分抹消,文字抹消,星印抹消の合計得点:79→122点).一方,刺激呈示前の注視位置に依存しやすい線分二等分試験は順応直後に改善したが,翌日には順応前の成績に戻った.本例でみる限り,無視症状の改善は,刺激呈示前の注視位置が順応後に左方へシフトしたことよりも,左方への探索が繰り返し出現しやすくなったことによると考えられた.検査によらず改善を示さなかった1例はBITで重度の無視を示していた.次年度は症例を増やして,改善する課題としない課題の検討,ならびに,重症度をはじめとする適応症例の選択基準などについて研究を進める.
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