本研究の目的は、重度運動障害者のための随意動作によらない意思伝達システムの操作スイッチとして、交感神経反応に"随意性"をもたらす条件を見出すことである。交感神経系の反応としては皮膚電位反応を取り上げた。本研究の結果、随意動作と動作イメージは、安静時と比べて繰り返しの刺激に対する皮膚電位反応のhabituationが小さいことがわかった。また、随意動作と動作イメージを比較すると随意動作のほうが皮膚電位反応の振幅が高く、また出現率も高かった。随意動作が無毛部皮膚の発汗に効果を及ぼす経路は明らかではないが、発汗中枢に中枢性の運動コマンドそのものあるいは運動コマンドに比例する興奮性入力があると考えられ、動作イメージによる皮膚電位反応にも中枢性運動コマンドの関与が考えられる。動作イメージは、随意動作を行うことができない状態で皮膚電位反応に随意性を与える一つの方策となりうるといえる。そこで、実用に近い形で皮膚電位反応を入力スイッチとして文字を選択する課題を行い、動作イメージとmental countの効果を調べた。動作イメージもmental countも動作の実行をともなわない点で認知的作業であるが、動作イメージにおいては動作の準備と実行に関わる中枢過程が働くと仮定している。本研究では、動作イメージはmental countに比べて、ランダムな数列でも昇順数列でもtargetに対する皮膚電位反応の出現率が高いという結果が得られた。また、動作イメージでもmental countでもランダムな数列のほうが皮膚電位反応の出現率が高かった。定位反応に加え動作イメージ中に活動する中枢機構が皮膚電位反応に関与することが示唆され、皮膚電位反応など自律神経系の反応を利用する意思伝達システムにおいて動作イメージによって反応の随意性を高めることが可能であると考えられた。
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