研究概要 |
主観的・感覚的な情報によって,運動を制御するためのイメージ(「運動のイメージ」と呼ぶ)がどのように形成されるのか,さらに,形成されたイメージが動きのパフォーマンスに反映されるのかを検証した(実験1).また,運動を観察することで形成されるイメージ(「感覚のイメージ」と呼ぶ)との関連性を検討した(実験2). 実験1では,ダンス部に所属する大学生7名を被験者として,視覚情報および聴覚情報を呈示し,SD法により「運動のイメージ」を測定した.「運動のイメージ」の違いを検討したところ,付加された情報によって異なるイメージが形成されることが示された.また,「大きく,ゆっくり」動くように意識すると実際の動作時間も長くなるなど,「運動のイメージ」が動きのパフォーマンスに反映されていた.一方,指先の軌跡からは,空間的なイメージがパフォーマンスに明確に反映されているとは言い難く,イメージの空間性を表現することは困難であった. 実験2では,大学生27名を被験者として,実験1の被験者(モデル)の映像をモニターに呈示し,その動きから感じたイメージを回答させた.モデルが形成する「運動のイメージ」と観察者が描く「感覚のイメージ」とが,どの程度一致するかを検討したところ,自分では「大きく,ゆっくり」と動いているつもりでも観察者にはそのようには感じられないなど,イメージが一致しない部分が多かった.なお,安定した「感覚のイメージ」を獲得したモデルは,モデル自身が描くイメージとパフォーマンスのずれも他のモデルと比較して小さかった. 「運動のイメージ」と「感覚のイメージ」とは,必ずしも一致するものではない.イメージの共有化に近づくためには,運動に伴う主観的・感覚的な感性情報を何らかの形で定量化し,客観的・力学的な指標ではない新たな基準で動きを観ることが必要であると考えられる.
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