研究概要 |
本年度は,運動遊び指向を指導方針に置くクラブ(競技志向が比較的弱い)に所属するジュニア・ラグビー参加者を対象に,ラフプレイ場面におけるモラル判断の変化を縦断調査することにより,子どもの否定的感情への対処がどのように育まれているかを検討した。調査対象者は,幼児期開始群と児童期開始群各10名,Bredemeierらの尺度を日本語版に修正した下記の5場面におけるモラル判断に関わる認知・感情について調査を行った。1)「ラグビーの試合や練習中に,自分より強い相手と身体接触するときの感情」2)「強い相手にタックルされて地面に倒れたときの感情」3)「タックルで倒された後,相手に嘲笑された場合の感情」4)「味方選手が相手に危険なタックルを受けてけがをしたときの気持ち」5)「試合状況や,仲間・周囲の雰囲気の中で,危険なプレイをするかどうか」。 調査結果をまとめると,●幼児期開始群においては,2年間のクラブ参加・継続を通じて,身体的接触・ラフプレイ場面に遭遇したとき,否定的感情の表出が低減する傾向が認められた.●児童期開始群においては,調査前後で,同様の場面において,否定的感情の表出が低位に維持されていた.この背景として,ラグビーのルールの範囲でのラフプレイを受容すること,またラフプレイを克服するようスキル向上を指向すること,が示唆された.●先行研究が予想するように,本研究結果には,幼児期から児童期にかけて前習慣的段階(自己中心性)から習慣的段階(よい子)への道徳性発達の傾向が示唆された.●幼少年期の運動遊び・スポーツ場面における心身の望ましい発達を期待するのであれば,子どもを取り巻く(1)コーチや指導者,(2)異年齢,同年齢の仲間,(3)家庭の支援,(4)子どもが意欲的に参加する「場」であるために工夫・計画された教材開発,といった社会的環境(道徳的環境)の整備や方向づけが重要であると示唆される.●今後,日常生活場面と運動遊び・スポーツ場面における否定的感情あるいは攻撃性の表出との関連性を検討する必要がある.●また運動・スポーツへの参加・継続と同時に,その中でモラル判断や社会的スキルの発達にも焦点づけられたプログラム開発およびコーチング上の配慮について検討が必要である. 以上の点については,平成16年9月に信州大学で開催された第55回日本体育学会において口頭発表をした。
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