研究概要 |
今年度は、映像メディアにおける運動の対象化の基本問題と、運動発生の営みに関わる学習者の知覚の構造化の問題を、理論的に再検討した。運動を対象化するという問題は、映像メディアを使う場合、映像の間欠性の問題が指摘される。瞬間という静止画の連続において、今の映像と次の映像の間という時間的隙間が生じることは避けられない。高速度撮影によりその時間的隙間を少なくすることは、精密自然科学的分析のためには有効なことかも知れないが、技能習得という実践場面で映像メディアを使用する場合は、運動映像として違和感のない程度のフレーム数で良いと考えられる。むしろ、実践場面では、実際の運動の精密な再現性よりも、その運動欠点を特徴づける撮影方向や、瞬間画像としてブレのないシャッタースピードの方が重要視されるものである。しかし、自分の運動を映像化し対象として観察できても、それをどのように自分の運動発生に利用していくかは、映像からの本人の情報収集力にかかっている。その情報収集力は、単に対象化された運動を等質時空系での図形変化として捉えるものではなく、キネステーゼ(E, Husserl)で捉えることにある。つまり、その図形変化に「動きの感じ(キネステーゼ)」を注入できるかという問題である。しかし、キネステーゼは能力性を持っており、誰にでもそのような「動感(キネステーゼ)」を注入できるわけではない。ここにおいて、いままで自然科学的客観性という能力性を排除した客観性と、現象学的客観性という能力性に関わる客観性の問題が截然と区別されることになる。次年度は、キネステーゼの能力性を前提に映像メディアの活用法を検討していく。また、研究成果の一部は原著論文として発表済みである。
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