本研究における目的は、舞踊運動における指導内容と方法に関する指導言語と、指導者の舞踊運動を見る観察の眼である評価との関連を明らかにすることによって、今後の舞踊表現の指導に資することである。 本研究では、評価しようとする舞踊運動が対象として妥当かどうかの検討のために運動分析を行い、舞踊運動の物理的な特性を考察した。IIでは、舞踊を「見る」ことがどのような認知枠組みに基礎づけられるのかを検討するために、評定実験を行い、その結果を多変量分析した。評定実験の結果を因子分析したところ、力性、時間性、空間性に関する語彙から8つの舞踊運動の多様性に応じるには少なくとも19対語の評定用語が必要なことが示唆された。 評価する観点(観察する眼)に対する客観性の検証(動作分析と評価実験との対応)の段階では、まず、舞踊経験が舞踊運動を見ることにどのように関連しているのかを検討し、その見るという評価と舞踊運動の物理的な特性との対応も検討することができた。 舞踊経験と評価との関連では、舞踊経験が「見る」ことにどのように関与するのかを検討するために、舞踊経験の異なる3つのグループに対して評定実験を行い、有意差の検討と多変量解析を行った。有意差の検討から、舞踊熟練者の評定が学生より教師に近いことが示唆され、経験の異なるグループ別の因子分析から、舞踊熟練者の認知構造が学生や教師と比べて、また学生より教師がより統合されていることが示唆された。 授業実践における有効な指導言語と評価の関係の検証に関しては、本研究結果において舞踊運動の評価が舞踊経験に基づく身体性(身体言語)に関与すると考えられることを踏まえて、評価と指導における有効な言語との関連を検討することが望まれる。
|