平成16年8月・9月に宮崎県を襲った台風禍によって、聞き取り調査を予定していた椎葉村内の夜神楽伝承地区への交通・通信が遮断され、ビデオ収録を予定していた祭り当日についても復旧工事が進まない影響で夜神楽の中止・縮小が相次ぎ、当初の調査予定を変更せざるを得なかった。 しかしながら、台風禍に見舞われながらも、例年通り夜神楽を奉納できる地区とそうでない地区はそのまま伝承が順調である地区と衰退の危機にある地区と見分けることもでき、夜神楽の後継者育成の仕組みは次代を担う若者を地域に留める仕掛けともなっていることが了解された。Uターン率が高い尾前神楽を始めとする尾向地区や隣接する市部在住者(地区出身者)の支援体制ができている栂尾神楽などと、農林業の衰退による後継者不足がそのまま神楽存続に影響している他地区との二極化力弐進んでいる状況から、伝承するための神楽ではなく、地域において然るべく神楽が機能しているからこそ伝承されているということがあらためて確認できた。 椎葉村での調査に代えてビデオ収録した諸塚村の桂神楽は数年置きに奉納されるが、律儀に踏襲されている反復と抑制された素朴な舞ぶりに特徴があった。西都市東米良地域の銀鏡神楽と尾八重神楽と併せて比較検討すると、後継者育成の仕組みと舞の特徴との間に興味深い関わりが認められるのではないかと思われた。 宮崎県の神楽伝承はその伝承数の豊富さによって守られている。すなわち、伝承が途絶え掛けると同系統の神楽伝承地区に教えを受けて再興させたといったことが、多くの地区で一度ならず認められる。その一方で、地区の独自色を強調して他地区、特に近隣の地区への伝承には慎重な態度を取るというのが通常であった。ところが、今回の椎葉村での調査では、比較的隣接する地区間で、大事な神楽は他へ伝えておいて廃れたら習えといった古老の教えもあると分かった。
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