宮崎県旧東米良村の「銀鏡神楽」「尾八重神楽」「中之又神楽」、諸塚村の「南川神楽」「桂神楽」、椎葉村の「栂尾神楽」「追手納神楽」「尾前神楽」の祭り(夜神楽)と稽古(習い、ならし)を巡って、後継者育成の仕組みに関する調査を行い、以下のことが明らかになった。(1)夜神楽の演目には、基本とされる舞があり、子どもの舞から古老の舞に至る難易度とも解せる「格付け」がなされている。この格付けに準拠して稽古を積み、互いに競い合って舞の技量を磨き、上達が認められると、より上位の演目を祭りで舞うことが許されるという育成の仕組みによって後継者の成長が促されている。(2)夜神楽執行の役割分担を「手割」と呼ぶ。格付けを重視して技量のある後継者中心の手堅い手割を行うと見栄えのする祭りができ、格付けを柔軟に運用して未熟だが将来性のある後継者を抜擢する手割を行うと大いに後継者の意欲と成長を引き出すことができる。祭りは晴れの場面であるが、それ以上に後継者育成の実践的場面となっている。(3)格付けと手割という後継者育成の仕組みは多様な世代の後継者が揃って巧く機能するが、過疎高齢化した伝承地では、若い後継者確保に苦慮し、地域住民の意識変革と相俟って、育成の仕組みの活用が難しくなっている。(4)後継者育成の最も重要な場である稽古での仕組みは、その精神や心構えを表す「習い」「ならし」といった語彙の衰退とともに近代化し、師匠から技を盗む稽古から師匠が苦心して指導する練習へと変貌しつつある。(5)子ども達への神楽伝承が後継者育成の基盤であることが再認できた。よって、山村留学制度などは、過疎対策であるとともに夜神楽の後継者育成の仕組みでもある。(6)語りによる育成の仕組みの衰退とともに、何を願い何を表して舞うかという神楽の意味が失われつつあり、その調査・記述は急務である。(7)舞の型と後継者育成の仕組みを伝承地ごとに対比すると、変化要因に抑制と昂進、動きの多様化と反復の多様化といった一定の傾向がうかがえる。
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