運動時に筋活動を持続させるためには酸素すなわち血流供給が必要であり、いかに効率良く活動筋の血流を確保するかが重要になる。また、血流量の供給側である心臓もいかにエネルギーを消費せずに効率良く働くかが最大運動能力を決定する一要因となると考えられる。本研究では、筋収縮のリズムと心拍数との同期現象に着目し、同期が運動に関わる骨格筋の血流量を最大化するかどうか、また心筋の仕事量を軽減する可能性があるかどうかを検討し、循環系と運動リズムの同期現象の機能的意義についての解明を試みた。まず、運動時の下肢筋収縮に伴う筋内圧変動を模擬するため、筋内圧変動をシミュレートする装置を独自に開発した。両足大腿部に低コンプライアンスのカフを装着し、カフ圧を両下肢交互に瞬時に動脈圧レベルまでリズミックに上昇下降させる装置を開発した。カフ圧は高圧ガスを利用して上昇させ、筋収縮時間とほぼ同じdurationで負荷をかけた。コンピュータでフィードバック制御することにより、圧負荷周波数は平均心拍数となるよう制御した。カフ圧の最大値は静脈レベルの50mmHg、静脈圧と動脈圧の中間レベルの80mmHg、動脈圧レベルの120mmHgの3種類で実験を行った。カフ圧はカフに埋め込んだ半導体圧トランスジューサにより検出した。心電図、動脈血圧、大腿動脈血流速度、筋内圧などの連続計測から、synchrogramによる位相同期の有無、同期する場合のカフ圧と循環系諸指標のタイミングを解析した。カフ圧を120mmHgに設定したときにのみ有意な同期現象が観察された。このとき、筋内圧最大値のタイミングは動脈圧や大腿部血流速度のピークと一致しなかった。心臓が筋内圧上昇に対して自己組織的にリズムを制御し、末梢への血流を確保しかつ心仕事量を効率化していると推察された。
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