研究概要 |
有酸素性運動の継続は、大動脈などの中心動脈の伸展性を増大させるが、このトレーニングによる中心動脈の適応がどのようなメカニズムで引き起こされているのかは不明である。そこで我々は、有酸素性運動トレーニングによる大動脈伸展性増大のメカニズムを分子レベルで解明することを計画し、有酸素性運動トレーニングによる大動脈伸展性の増大にどのような遺伝子が関与しているのかを検討することを目的とした。本年度は、運動トレーニングによる大動脈伸展性増大の適応機序における関連遺伝子のプロファイリングを行うため、3,800遺伝子の発現を定量的に評価することができるマイクロアレイを用いて遺伝子発現の解析を行った。4週齢の雄SDラットにトレッドミルによる走トレーニング(30m/min,60分/日,5日/週)を4週間行った。また、コントロールとして、同週齢の安静飼育したラットを用いた。トレーニングあるいは安静飼育終了後、大動脈伸展性を測定し、その後、大動脈を摘出し、大動脈におけるmRNAの発現を解析・評価した。コントロールと比較して、トレーニングにより、遺伝子の発現量が2倍以上の高値、あるいは1/2以下の低値を示したものを抽出した。大動脈伸展性はトレーニングにより、有意に増大した。大動脈にて、トレーニングにより増大した遺伝子数は206遺伝子、低下した遺伝子数は117遺伝子であった。このうち、大動脈伸展性に血管拡張・収縮因子として関連する可能性のある遺伝子を選ぶと、増大した遺伝子数は24遺伝子、低下した遺伝子数は5遺伝子であった。これらの結果から、運動トレーニングにより大動脈伸展性が増大し、その増大に血管拡張・収縮因子として作用する可能性のある多くの遺伝子の発現が関与している可能性が示唆された。
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