研究概要 |
パフォーマンス・プレッシャーが運動スキルの遂行時における生理的・心理的影響に比べて、行動的影響に関する先行研究は少ない。前年度は、単関節運動を課題として用い、一過性の心理的ストレスであるパフォーマンス・プレッシャーが四肢内協応に及ぼす影響を検討した。その結果、パフォーマンス・プレッシャーによりパフォーマンスが低下したが、それがタイミングに関する変化ではなく、力量調節の指標として用いた角加速度の変化に起因することが明らかとなった。そこで本年度は多関節運動におけるパフォーマンス・プレッシャーと運動協応の関係を調べることを目的とした。被験者(女性7名)に下手投げによるゴルフボールの的当て課題を学習させ、テスト場面においてパフォーマンス・プレッシャーを与えた。プリテスト10試行、習得120試行(10試行×12ブロック)、ポストテスト10試行、ストレステスト10試行の順に行わせ、ストレステストの前に、習得の後半7ブロックの平均より成績が下回った場合に電気刺激を与え、最高成績を上回った場合に賞金2,000円を与えることを教示した。電気刺激に関する教示は虚位の教示であり、実験終了後にディブリーフィングを行った。各テストにおいて、脈拍数の測定ならびに動作解析のためのビデオ撮影を行った。また、ポストテスト開始前とストレステスト開始前に状態不安をSTAIによって測定した。ストレステストにおいて、脈拍数と状態不安が上昇したが、的当てのパフォーマンスに低下は認められなかった。また、ストレステストにおいて、腕のバックスイング時とフォワードスイング時の肩関節の角変位が減少する傾向が見られた。また、ストレステストにおいて各関節の角速度の変動性が増加する傾向にあったが、肩関節に比べて肘関節や手関節といった末梢に近い関節においてその傾向は顕著であった。今後、情動反応や意識的制御と動作変化の関係をさらに詳細に検討する必要がある。
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