研究概要 |
ヒトが運動するときの出力パワー(P)と疲労困憊に至るまでの継続時間(t)の関係は,(P-CP)t=AWCが成り立つことが報告されている。ここで,CPは,疲労性作業閾値あるいはCritical Powerと言われ,長時間に渡って運動を継続することができる上限の運動強度と解釈されている。また,AWCは,発揮パワーとCPの差に継続時間を乗じたものであり,無酸素的エネルギーの体内貯蔵量に関連する量と解釈され,無酸素性作業容量(Anaerobic Work Capacity)と言われている。この2つの指標は,それぞれ有酸素性能力,無酸素性能力を表していると考えることができる。本研究は,このP-t関係式が局所の動的筋作業においても成り立つか否かを検討した。また,上腕二頭筋と上腕筋のEMGを記録し,EMG-FTが検出可能であるかを検討した。EMG-FTは,1回の収縮ごとの筋放電量が増加する割合から算出される指標である。負荷強度が大きくなるほどその増加率が大きく,増加率が0となるパワーがEMG-FTであり,CPに相当する。被検者は健康な成人男子6名とし,座位姿勢で肘関節を130°から80°まで屈曲させる運動を行った。その際に,伸展時には伸張性収縮をしないこととした。一定の負荷強度で毎分60回のテンポで運動し疲労困憊になるまでの継続時間を測定した。負荷設定は,静的最大筋力の25,30,40,50%とした。P-t関係式は双曲線をなすので,測定値プロットが直線となるように変形し,P-(1/t)関係式を調べた。P-(1/t)の直線性を相関係数で検討すると,すべての被検者でr>0.9が得られ,肘関節屈曲運動においてもP-t関係式が成り立つことが示された。しかしながら,短時間で疲労困憊に至るような高強度負荷では,そのプロットが直線から離れる傾向にあり,EMG-FTについては,CPと良く一致する被検者と大きな差が認められる被検者がいた。これは,CP,EMG-FTを算出する時のデータの直線性が関連している可能性が考えられた。
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