研究概要 |
平成17年度は,前年度の研究プロセスを経て作成された調査票を用い,実際のスポーツ・イベントの開催されている会場でアンケート調査を行うことを当初の目的としていたが,質問紙法による量的調査は困難を極め,調査方法の一部変更を行わざるを得なかった. 具体的には,前年度に行った「Jリーグ公式戦」,「ゴールデンゲームズ in のべおか」それに「第53回西日本各県対抗九州一周駅伝競走大会」の観察結果に加え,本年度は「第87回 全国高等学校野球選手権 福岡県大会」の観察と記録を行い,解釈学的な研究方法からスポーツのメディア機能の分析を行った.その結果,以下のことが明らかとなった。 高度情報環境の出現は,あらゆる物事に対する人々の信頼感や現実感を希薄化させ,現代人のアイデンティティを寄る辺ないものとし,人とひととの直接的なコミュニケーションの崩壊を引き起こしていると問題視されている. このように社会全体が仕組みとして身体性の脱落を加速化させる中,スポーツがそれとは反対のベクトルで人々の関心を引きつけていると解釈できる現象が,サッカーや陸上競技,そして野球の試合観戦を行っている人々の観察から明らかとなった.これらのことから現代社会におけるスポーツは,新聞,テレビ,インターネットといった一般にいわれるメディアの内容であるばかりでなく,それ自体人とひととを媒介し結びつける「コミュニケーション・メディア」として機能していると解釈された. 現代社会においてスポーツが重要なのは,スポーツが「する,極める,見る,支える」といった多様な参与形態により人とひととを瞬時に結びつけ,交流を促し,彼らの住まう地域の活性化に貢献し得るからである.つまりスポーツは,「情動的なコミュニケーション」を介して集団のメンバー間に多様な関係を生み出すことで,彼らに「実存の感覚」をもたらすよう機能していると考えることができる。
|