平成17年度は、動体視力の向上を目指したトレーニングの開発を目的として、運動物体と同方向に頭部を回転しながら運動物体を追跡するトレーニングを実施した。まず、健常成人84人を対象に、右方向の頭部回転中にCRTモニター上を右方向に等速運動(90deg/s)しながらランダムな順序で変化する3つの数字を読み取らせ、その正答数を動体視力スコア(3x20回=60満点)として評価した。その結果、動体視力スコアの平均と標準偏差は37.0±7.8であった。次に、2週間にわたってこのトライアルを毎日125回繰り返すハードトレーニング(HT)群3人、25回繰り返すライトトレーニング(LT)群3人を設定し、経時的に動体視力スコア、頭部運動、眼球運動を測定した。トレーニング初日と最終日の動体視力スコアは、HT群では39.7から50.3、LT群では41.3から52.3とほぼ同様の上昇を示した。しかし、頭部回転運動の最高速度は、HT群では43.3から79.0deg/sと速くなったが、LT群では62.1から30.1deg/sと遅くなった。通常、この頭部運動条件下では前庭動眼反射(VOR)は運動物体と逆方向に誘発され、動体視力にとっては不利とみなされる。したがって、LT群ではVORを抑制する方向にはたらいたと考えられる。しかし、HT群ではトレーニングとともに頭部回転運動のピークのタイミングが早くなり、数字提示時点ではすでに減速、すなわち頭部の回転角加速度は左方向となった。VORが加速度方向と逆方向に誘発されると考えれば、運動物体と同方向の眼球運動が誘発されることになり、動体視力には有利となる(逆相VOR仮説)。事実、眼球運動の解析結果はこの仮説を支持している。 逆相VOR仮説が正しければ、これまで知られていなかったVOR機能の発見となり、この機能を利用すれば動体視力の向上が可能になるものと思われる。
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