骨格筋を構成する遅筋線維と速筋線維の分化と維持に関与する遺伝子群を明らかにするために、ラット、マウスの全骨格筋における遅筋線維と速筋線維の分布を検索した。齧歯類では、下肢に分布する7つの骨格筋だけが遅筋線維を30%以上含み、遅筋線維における遺伝子発現を検討する上で重要なサンプルになることが分かった。 筋線維の割合が明らかとなった15種類のラット骨格筋からcDNAを調整し、ラット骨格筋パネルとした。次に8週令のSDラット骨格筋より標識cDNAを調製しDNAアレイ解析を行った。その結果、骨格筋間で500程度の遺伝子でmRNA発現量に差異が認められた。mRNA発現量の差異は、約70の代謝酵素遺伝子、45の構造タンパク質遺伝子の他に、約80の転写因子、シグナル伝達因子で観察された。この他に機能が知られていない遺伝子が250程度含まれていた。さらに、支配神経切断によるラット下肢骨格筋萎縮モデルから萎縮骨格筋サンプルを調製し、正常骨格筋と萎縮骨格筋間でDNAアレイ解析を行った。従来、萎縮骨格筋では、筋線維の分化が失われて遅筋線維と速筋線維の遺伝子発現パターンが近似すると考えられていた。しかし、萎縮した遅筋線維と速筋線維では、必ずしも遺伝子発現パターンが一致していなかった。以上の結果は、支配神経を失った場合でも筋線維の分化形質がある程度保存されることを示唆する。支配神経による筋線維分化誘導後に一部の遺伝子発現パターンが不可逆的に固定される可能性が考えられた。
|