研究概要 |
インスリンと低酸素刺激は各々別個の情報伝達経路を活性化するが、最終的にはどちらの刺激もGLUT4をトランスロケーションさせることによって筋の糖取り込みを促進させる。糖質摂取開始後にグリコーゲン合成にともなって生じる低酸素刺激に対する糖取り込み反応低下とインスリン反応性の低下を時間経過で追ったところ、両者の低下は同時には生じなかった。したがって、グリコーゲン超回復筋におけるインスリン感受性低下の原因としては、インスリンと低酸素刺激の共通経路であるGLUT4トランスロケーションステップの阻害ではなくて、インスリン情報伝達経路の阻害、特に、PKB/Aktの阻害が想定される(研究課題1)。 グリコーゲン超回復筋におけるインスリン感受性低下にはタンパク発現の関与が示唆されている。また、リン脂質フォスファターゼであるSHIP2,SKIP,ならびにPTENはPKB/Aktを阻害することによってインスリン情報伝達系の阻害を引き起こす。しかし、これらのリン脂質フォスファターゼのタンパク発現レベルがグリコーゲン超回復筋で増加していることはなかった(研究課題2) グリコーゲン超回復筋ではグルコースからの脂質合成と脂肪酸酸化抑制の律速酵素であるAcetyl CoA Carboxylase(ACC)のタンパク発現レベルが上昇していた.また、再摂食後にグリコーゲン回復にともなって生じるインスリン感受性低下とACC発現レベル上昇を時間経過で検討したところ、両者に相関性がみられた。したがって、ACC発現上昇がグリコーゲン超回復筋におけるインスリン感受性低下に関係している可能性が示唆される(研究課題3)。 Musclinはインスリン作用を阻害する骨格筋由来内分泌因子である。また、G0/G1 switch proteinはグリコーゲン超回復筋にともなってその発現量がもっとも上昇するタンパクである。再摂食後にグリコーゲン回復にとも'なって生じるインスリン感受性低下とmusclin、ならびに、G0/G1 switch proteinのmRNA発現上昇を時間経過で検討したところ、インスリン感受性低下とmusclin mRNA上昇には相関性はみられなかった。一方、インスリン感受性低下とG0/G1 switch protein mRNA上昇に相関性がみられた。今後、G0/G1 switch proteinがグリコーゲン超回復筋におけるインスリン感受性低下に果たす役割について検討する必要がある(研究課題4,5)。
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