最大酸素摂取量にいたる有酸素運動負荷時には、生体内で生成された過剰な酸素ラジカルを捕捉するために肝細胞質のNADPH-コエンザイムQ還元酵素が重要な役割を果たしている可能性をこれまでに本申請研究で明らかにしてきた。しかしながら、その有酸素運動の程度と還元型コエンザイムQ10の生体内動態やNADPH-コエンザイムQ還元酵素の変動との関係は明らかではない。申請研究最終年の本年度は、上述の点を明らかにすることを目的とした。 実験動物にはSD系の雄性ラットを用い、有酸素運動には水泳を負荷させた。その結果、強い有酸素運動負荷時には、肝細胞質のNADPH-コエンザイムQ還元酵素活性の変動は認められなかったが、血清中の還元型コエンザイムQ10値は減少し、一方、総(還元型と酸化型の総和)コエンザイムQ10には変動はなかった。これに対して、弱い油酸素運動時には、NADPH-コエンザイムQ還元酵素活性は一過性に上昇し、その後減少した。その間血清中の還元型コエンザイムQ10値も一過性の増大が観察された。これらの結果は、有酸素運動の強弱にともない、すなわち酸素ラジカルの生成量の違いによって、生体はNADPH-コエンザイムQ還元酵素活性を調節していることを示唆した。また、その酵素活性に連動して血清をはじめとする生体内の還元型コエンザイムQ10動態も変化することを見出した。さらに、あらかじめコエンザイムQ10を経口投与したラットでは、NADPH-コエンザイムQ還元酵素活性は上昇し、それにともなって強制水泳時の血清乳酸値やCK値の上昇は緩和された。 これらの結果は、NADPH-コエンザイムQ還元酵素は有酸素運動時に生成される過剰な酸素ラジカルを捕捉するために、生体内で機能調節していることを明らかにした。また、コエンザイムQ10の経口投与は酸素ラジカルによる細胞障害を緩和できる可能性もあわせて示唆した。
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