本研究では、慢性ストレスにより誘発されると考えられるストレス性高血圧に対する継続的な自発走運動の影響とその脳内機序について検討を試みた。実験には、ストレス性高血圧のモデル動物と考えられる10週齢の雄の境界型高血圧ラットを用い、慢性ストレス群(S群、n=3)、慢性ストレス+回転車輪を用いた自発走運動群(S+Ex群、n=3)、対照群(ストレス、自発走運動なし:C群、n=2)の3群に分けた。S群とS+Ex群には、1日4時間、週5日の頻度で、拘束+水浸ストレスを10週間負荷した。C群、S群、S+Ex群ともに、無線式テレメトリーシステムにより測定した平均血圧は、実験期間を通じて明期に低く、暗期に高いという日内変動を示したが、それらの値は、各群とも、実験開始時(0週目)と10週目との間で差は見られなかった(0週目:S群;明期109±1、暗期117±1、S+Ex群1明期108±1、暗期117±2、 C群;明期108±1、暗期115±1、10週目:S群;明期109±1、暗期119±3、S+Ex群1明期108±1、暗期123±3、 C群;明期109±1、暗期123±1mmHg)。また、慢性ストレス負荷終了後に還流固定した脳を摘出し、神経由来の一酸化窒素合成酵素(nNOS)の抗体を用いた免疫組織化学的染色に供し、視床下部室傍核のnNOS陽性細胞数を各群について測定した。その結果、視床下部室傍核のnNOS陽性細胞数についても、各群の間で差は認められなかった(S群;145±22、S+Ex群;145±34、C群;141±26個)。以上のように、今年度の実験結果からは、慢性ストレス及び継続的な自発走運動は、安静時の血圧に明らかな影響を及ぼさず、血圧調節に関与する可能性のある視床下部室傍核のnNOS陽性細胞数にも影響を及ぼさない可能性が示唆された。
|