種々の疾患を有する高齢者が一生涯を通じて在宅で介護を必要とせずに、自立した生活を送ることができる"健康寿命"を維持するのに必要な体力の基準値の設定と、新しい運動処方を考案し、その評価を検討した。 高齢者は加齢に伴って下肢の筋力や筋肉量、平衡機能、柔軟性などの体力諸量が低下する。特に下肢筋力低下と筋力の左右差が歩行能力や10m障害物歩行の運動能力に密接に関連した。さらに、高齢者が在宅で介護を受けずに、自立した生活が出来る体力として、歩行能力として6分歩行距離は322m、バランス機能としての開眼片足立ちは24.8秒、柔軟性の長座体前屈は7.6cm、大腿伸展筋は279N、大腿部の筋肉量は4.5Kg、一日歩行数では3846歩/日という日本人の基準値を提唱した。 高齢者の運動療法として、日常一般に行われている自転車運動に注目して、自転車の回転数が下肢筋肉内の酸素動態と脂肪燃焼量に及ぼす効果を検討した。同じ負荷強度であっても、低回転より高回転のほうが糖質および脂質燃焼量が高値を示したが、総エネルギー消費に対する脂質燃焼の比は低回転の方が44.6±3.5%と高かった。従って、高齢者の生活習慣病の予防をめざした安全な運動方法として、ゆっくりとした回転数(32回/分)の自転車運動が適していることを示した。 さらに、高齢者が自力で日常活動ができる体力を維持するために、下肢の伸展筋力の維持と下肢筋力の左右差を改善することを目指した新しい運動処方を考案した。この処方の特徴は、筋力の強い足では最大伸展筋力の50%、弱い足では60%の錘をつけた3種目の筋力トレーニングと、最大筋力の5%の錘をつけて障害物のある10mを歩く訓練法である。2ヶ月の訓練介入により、膝伸展筋力、筋力の左右差、およびバランス機能はいずれも有意に改善し、運動能力および転倒予防機能を示す10m障害物歩行時間が改善した。そのため、転倒恐怖感の自覚症状がとれて家庭内での日常動作が増した。これらの結果は、家庭内での活動能の増加に繋がり、QOLの向上にも関与する。さらに高齢者の"寝たきり"に繋がる転倒-骨折-入院-寝たきりの悪連鎖を予防することになり、ひいては高齢者の健康寿命の延長に繋がることが示唆された。
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