本研究は、成人肥満者を対象に、低圧低酸素環境下における安静時と一過性の歩行運動終了後の末梢循環の動態、さらに、4〜6週間の定期的な歩行運動が末梢循環の動態および動脈スティフネスにどのような影響を及ぼすか検討した。その結果、1.安静時における加速度脈波波高比のd/a値とAPG Indexは、HE(標高1500m)がNE(常圧常酸素環境、平地)に比べて、有意な増加を示した。2.一過性の歩行運動における加速度脈波波高比のb/a値は、運動前、運動終了60分後でHE1(標高1500m)とHE2(標高2000m)がNEに比べて、有意な低下を示した。d/a値とAPG Index値は、運動前、運動終了60分後でHE1とHE2がNEに比べて、有意な増加を示した。HE1とHE2では、有意な差がみられなかった。3.安静時の皮膚温は、HEがNEに比べて、頭頸部、胸部、上腕部、前腕部、手掌部で高温エリアが拡大していた。運動後の皮膚温は、HEがNEに比べて、運動終了60分後も高温の状態を維持され、手掌部では有意な上昇を示した。4.4〜6週間の歩行運動を行ったEGのb/a値は、トレーニング後がトレーニング前に比べて、有意な低下を示した。EGのd/a値とAPG Index値は、トレーニング後がトレーニング前に比べて、有意な増加を示した。EGの脈波伝播速度baPWVは、トレーニング後がトレーニング前に比べて、有意な低下を示した。以上の成績から、比較的早期の効果は、単に運動の効果というだけではなく、低圧低酸素という特殊な環境下の歩行運動による効果であることが考えられる。肥満者や中高年者では、標高1500mの環境でも十分に効果が得られること、歩行運動終了後も末梢血管の拡張、血流量の増加等から、末梢循環を一時的に改善すること、さらに、定期的な歩行運動は、安静時の末梢循環を比較的早期に改善することや肥満および動脈硬化の予防や改善に期待できることが示唆された。
|