研究概要 |
実際に使用されている多くの反応染料にはアゾ-ヒドラゾン互変異性平衡(AHT)が存在する。セルロース上にある染料のAHTを常法のNMRでは決定することすらできない。このような状況から、AHTが単純なピラゾリン系アゾ染料とアゾベンゼン系染料の気相中と水中のAHTを半経験的分子軌道法(MO)PM5法によって、その生成熱から推定した。セルロース上のAHTは水と気相の中間にあるとみなし、セルロース上における反応性を福井のフロンティア軌道理論(FOT)を用いてPM5法で検討した。 供試染料で反応染色したセロハンを空気飽和したRose Bengal溶液に浸漬しながらカーボンアーク灯を照射し、発生する一重項酸素(^1O_2)によるこれら染料の光酸化退色速膜(^1O_2との二次反応速度定数句を求めた。^1O_2は染料分子中の二重結合に対し、エン反応及び/または[2+2]シクロ付加反応で反応し、アゾ基の根元の炭素が反応に関与している場合は、脱ジアゾ反応を経て、最終生成物になる。PM5法で決定した供試染料のセルロース上の互変異性体のFOTによる反応性指数は二重結合の両側の原子の求電子反応指数f_r^<(E)>の和であり、反応位置が2つ以上あるときは分子全体ではそれらの総和S_<m,n>(m,n:)になる。d_<HOMO>とf_r^<(E)>の両方の値から和の大きい二重結合を順を追って採用し、限界値よりも何れかが小さい場合は、その二重結合を除外した。それらの各染料のS_<m,n>(m,n:)を求め,log k_0に対してプロットすると、系列ごとに良好な相関直線が得られた。各系列の相関直線は、勾配がほぼ同じで,平行移動した相関関係が得られている。照射後のセロハンに残る分解生成物の吸収スペクトルは完全な実証ではないが、推定した反応機構と矛盾しない事を確認した。これらの結果は、一連の染料の^1O_2との酸化反応の取扱いが、合理的であることを示している。
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