老人ホームや老人病院などの老人施設では、入居者に生きがい観を与えるため、情動を活性化するために、動物療法、園芸療法、化粧療法、ファッション療法などの様々な試みが実施されている。我々は、これらの試みのうち、おしゃれ行動による情動の活性化に注目し、10年ほど前から特に化粧療法、ファッション療法などに関する意識と実態の調査研究に取り組んできている。本研究はこれらの調査研究の延長上にあるものである。 特別養護老人ホーム200施設、養護老人施設200施設(厚生労働省の社会福祉施設全国一覧より抽出)に対して2005年にアンケート調査を実施し、特別養護老人ホーム128施設(有効回答率64.0%)、養護老人ホーム151施設(75.5%)から回答を得た。1996年の調査と共通な質問項目については、両年を比較して考察を進めた。「美容師などによる入居者の化粧」の実施度は1996年と比較して、特別養護では32.3%とほぼ同率であるが、養護では27.2%と増加していた。「ファッションショーの開催」については、特別養護、養護ともに前回と同様に数%と低率であった。各種療法(活動)の実施度を多い順にあげると、特別養護では、音楽、園芸、絵画、化粧、動物、回想の順、養護では、園芸、音楽、ダンス、絵画、化粧、動物の順であった。装いによる効果については、前回と同様に、特別養護、養護ともに「笑顔がでる、表情が明るくなる、若々しくなる、元気になる」などの効果を認めていた.また、老人ホームでの化粧療法、老人病院でのメディカルエステ療法などについて、観察調査、インタビュー調査を通してその効果を考察した。アンケート調査および観察調査から、自立高齢者と介護高齢者の間には、「装い」における本人への効用や影響力にそれほど大きな差は認められず、自立高齢者および介護高齢者に対して、「装い」には心理的療法としての効果が十分に期待できる。
|