限られた期間に研究成果を上げるために、主テーマを「婚礼時における被り物」に絞って研究を進めた。女性の顔隠しの起源及び要因、歴史的変遷、儀礼と結びついて現代まで継承されてゆくプロセスと背景を明らかにすることを目標とし、役割分担を決め、研究を進めた。 1.日本;儒教の隆盛と社会情勢の変化によって平安前期より上流女性の顔隠しが始まり、これは近世まで継承される。中流以下の女性も中世には被衣を被ることが常態となるが、この被衣は仏教の女性蔑視思想と結びつき、女性の象徴である髪や女性全体の姿を隠す為のものであった。近世には、極上流女1生以外の被衣はなくなり、ファッションとして男性の目を引きつける為の被り物の流行もみる。 2.ヨーロッパ;教会の典礼時に女性が被るヴェールは、『新約聖書』聖パウロの言葉に関わりを持つ。 ローマ帝政末期教父等は男性を誘惑する罪深い存在として女性を捉え、女性に顔や髪を隠すためにヴェールを被るよう求めた。聖パウロの言葉はこのローマの女性観と結びつき、以後ヴエールは顔を隠す意味合いをもつ被り物となってゆく。また、近世の典礼時のヴェールには宗教改革が影響を及ぼした。一方近世にはファッションとしての仮面が登場し、異性を引きつける道具としての顔隠しがみられる。 3.イスラム;実用目的で被られ始めたヴェールであるが、B.C.13〜15世紀頃に男性保護下の女性と他の女性を区別する為にヴェール着用が義務づけられた。その後「コーラン」で、女性は大切で美しい所を限られた人以外には見せてはいけないとされ、これが現在のイスラム社会に継承されている。 日本では明治以降花嫁の被り物は被衣から綿帽子・角隠しへと変化して今日に及び、ヨーロッパではヴェールが被られ続けている。これらの花嫁の被り物は、かつて女性が顔を隠し、女性であることを隠すことを求められていた歴史の遺物であることが明らかになった。
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