誘導性のヘム分解酵素であるヘムオキシゲナーゼ・1(HO-1) は、基質であるヘム(ヘム鉄)や酸化的ストレスなど種々の刺激で誘導され、抗酸化物質ビリルビンの産生を促進する生体防御タンパク質である。低酸素では、げっ歯類HO-1は誘導されるのに対し、ヒトHO-1は多くの細胞で発現抑制されるという興味深い種差がある。一方大豆イソフラボンはエストロジェン補充を目的として、女性を中心に広く摂取されている。本研究代表者らは、大豆イソフラボン誘導体であるゲニステインやダイゼインが、ヘムやNO供与体のニトロプロシド(SNP)によるHO-1誘導を抑制する場合があることを見いだしてきた。今年度はヒト肺癌由来のA549細胞とヒト血管平滑筋細胞を主に用いて、ヘムやSNP以外の物質も含めて、HO-1誘導に対するイソフラボンの発現調節作用を調べた。またヒトHO-1の発現が抑制される低酸素下で、HO-1の誘導がどのように修飾されるかも解析した。その結果、ポリアミンによるHO-1誘導に対して、ゲニステインは弱い抑制作用を示した。またSNPなどのNO供与体によるHO-1の誘導は、低酸素下でもほとんど影響を受けなかったが、ヘムによるHO-1誘導は常酸素下よりも減弱した。一日摂取目安上限量が食品安全委員会で討論されるなど、最近イソフラボンの安全性が問題視されているが、生体影響についてはエストロジェン様作用を基にした議論が多い。これに対して今回の研究結果は、食品成分であるヘム鉄やポリアミンなどで誘導される生体防御タンパク質HO-1の誘導抑制作用という、新たな視点での注意を喚起するものである。また低酸素で抑制されるヒトHO-1の発現へ、イソフラボンがどのように作用するかを今後詳細に検討することは、長期摂取する食品成分の酸素関連疾患への影響を評価する上で、重要な課題の1つであると考えられる。
|