食品としても広く摂取されているヘム(鉄)は我々の生命維持に必須の物質であるが、過剰の遊離ヘムはラジカル発生源で毒性が強く、ヘムオキシゲナーゼ(HO)により分解されて抗酸化物質ビリルビンを生じる。HOには、基質ヘムなどで発現が増加する誘導型HO-1と、発現量が変化しにくい構成型HO-2があり、HO-1誘導が生体防御に重要であることや、HO抑制が癌を抑制する可能性が示されている。本研究では将来的な応用も視野に入れ、ヘム鉄やイソフラボンなど食品化合物によるヘム分解系調節とその作用機序を、ヒト由来細胞を用いて解析した。 低酸素はHO-1だけでなくHO-2の発現も減少させたが、これには複数の調節機構が含まれていた。siRNAによりHO-2の発現を抑制するとHO-1が誘導され、ヘム負荷条件下でのHO-2発現抑制は細胞内ヘム濃度を上昇させたことから、HO-2がヘム濃度調節とHO-1制御に重要であることが強く示唆された。イソフラボン化合物の作用としては、ゲニステインはヘムなどによるHO-1誘導を抑制したが、ダイゼインは誘導物質や細胞によってはHO-1誘導を抑制しなかった。ヘム鉄とイソフラボンは食品として併用される可能性も高いことから、食品成分としてはHO-1誘導を抑制しにくいダイゼインが好ましい場合もあると考えられる。またエストラジオールはHO-1誘導を抑制しなかったことなどから、イソフラボンによるHO-1誘導抑制は、エストロジェン受容体を介する既知の機序とは異なるものによる可能性が示唆された。 学術論文や学会発表に加え、特許出願や国際食品素材/添加物会議、所属機関公開講座などでも発表・広報活動を積極的に行ってきた。本研究による成果を更に発展させて、より効率的なHO誘導法・抑制法を見出し、生体防御機能食品や抗癌薬などへの実用化へつなげたい。
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