滋賀県や福井県のさば街道筋で漬けられているさばなれずしの熟成過程中の成分変化を調べ、熟成中に付与される栄養価や嗜好性について検討した。実験は、塩さばを飯漬けし、水分、灰分、脂質の含量、および塩分濃度、pHを常法どおり測定した。脂肪酸組成はガスクロマトグラフィーにより分析し、核酸関連物質は液体クロマトグラフィーにより定量した。揮発成分はSPMEファイバーに吸着させ、直ちにGCMSに導入することにより分析した。 さばの脂肪酸組成は飯漬け6ヶ月間でほとんど変化しなかった。n-3系多価不飽和脂肪酸を多く含むさばの栄養価に変化がないだけでなく、飯にさばの脂質が移行したことによる脂質面での栄養的価値が付加されていた。カルシウムは飯漬け期間が長くなるにつれて可食部に移行し、さばなれずしはカルシウムの供給源としても有効であると考えられた。さらに脂質同様、カルシウムでも飯への移行が認められた。その他の成分は飯漬け1ヶ月の間に大きな変動を示し、その後の変化は小さかった。すなわち、イノシン酸は飯漬け1ヶ月の間にほとんどが消失し、ヒポキサンチンやキサンチン含量の最大値は1ヶ月後にみられた。pHの低下も1ヶ月の間で起こり、その後はほぼ一定であった。揮発成分は、飯漬け1ヶ月後で新たに37種の成分が検出され、その中にはふなずしの主要揮発成分と共通するなれずしに特徴的であると考えられるエステル類や、酸類、アルコール類が多く含まれていた。その後も飯漬け期間が長くなるにつれて新たな揮発成分が検出されたが微量であり、なれずしの風味を複雑にする成分ではないかと考えられた。このように、さばなれずし製造中における飯漬け1ヶ月間での成分変化が大きかった。ただ、カルシウムや風味のように長期間にわたるゆっくりとした変化も起こっており、長期間熟成のもつ意味は大きいと考えられた。今後は、飯漬け1ヶ月以内と長期間熟成における分析および嗜好との関連性について分析をすすめる予定である。
|