滋賀県や福井県のさば街道筋で漬けられているさばなれずしの熟成過程中の成分変化を調べ、熟成中に付与される栄養価や嗜好性について検討した。実験は、塩さばを飯漬けし、水分、灰分、脂質の含量、および塩分濃度、pHを常法どおり測定した。脂肪酸組成はガスクロマトグラフィーにより分析し、核酸関連物質は液体クロマトグラフィーにより定量した。たんぱく質はSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を行うことにより、分析した。揮発成分はSPMEファイバーに吸着させ、直ちにGCMSで分析するとともに、におい嗅ぎ装置付ガスクロマトグラフにより、香りの検討を行った。 さばの脂肪酸組成は飯漬け2年間でほとんど変化しなかった。カルシウムは飯漬け期間が長くなるにつれて可食部に移行し、さばなれずしはn3系多価不飽和脂肪酸やカルシウムの供給源として有効であると考えられた。pHや核酸関連物質、揮発成分は飯漬け1ヶ月の間に大きな変動を示し、その後の変化は小さかった。すなわち、pHは飯漬け1ヶ月の間に5.7から4.3に徐々に低下し、その後はほぼ一定であった。イノシン酸は飯漬け1週間で最高値に達した後、1ヶ月以内にほとんどが消失し、ヒポキサンチンやキサンチン含量の最大値は1ヶ月後にみられた。揮発成分には飯漬け1週間で大きな変化が起こり、なれずしに特徴的な揮発成分が出現し、その後は飯漬け期間が長くなるにつれて新たな揮発成分が多数出現したがいずれも微量であった。これらはなれずしの風味を複雑にする成分ではないかと考えられた。また、香りを強く感じる成分は、飯漬け期間が長くなるにつれて出現するものの中に多く存在した。たんぱく質を電気泳動により分析した結果、飯漬け期間が長くなるにつれ、分子量の小さなバンドが複数検出されるようになり、分解が進んでいることが明らかになった。このように、飯漬け中において、核酸関連物質やpHのように1ヶ月以内の間に大きく起こる変化とカルシウムや風味のように長期間にわたるゆっくりとした変化のあることが明らかになり、長期間熟成のもつ意味は大きいと考えられた。
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