滋賀県および福井県のさば街道筋に伝わる伝統的さば加工品の成分を分析し、嗜好性との関係について検討するとともに、伝統的さば加工品の伝承について考察した。 さばなれずしの場合、加工工程において、さばが本来もっているn3系多価不飽和脂肪酸を豊富に含む脂肪酸に変化はなく、脂質面での高い栄養価が明らかとなった。さらに、長期間の加工期間中にさばの骨の可溶化に伴い、カルシウムが可食部に移行することも明らかになった。なれずしに特有の風味の基礎をなすと考えられる加工工程中に生成される揮発性物質を特定し、それらが飯漬け初期(約1ヶ月以内)に生成されることを明らかにした。なれずしの嗜好性には香りが大きく影響しており、香りに関与する物質は加工中に生成される特有の揮発性成分と酸によるところが大きかった。このことは特になれずしの食経験がほとんどない人で強く現れるものであった。へしこの場合、遊離アミノ酸量が多いことからアミノ酸による味の影響が考えられるとともに、揮発性成分分析からなれずしより発酵臭が少なく比較的生魚に近いにおいを持っていると考えられた。また、食経験がほとんどない人で塩辛さやすっぱさが強くない試料が好まれた。伝統的さば加工品の伝承のためには、食経験が少ない人にその栄養価や食文化の面からの有用性を訴えるとともに、食経験を与え、嗜好面で馴れを繰り返すことが必要であると考えられる。そして、馴れの段階で食するべき伝統的さば加工品は、揮発性成分や酸、塩分濃度の点からから適切に選ばれることが重要であると考えられた。 一方、なれずしの加工工程で用いられる飯の栄養価について検討した結果、脂質やカルシウムの点で有益な食品材料であることが明らかになった。そこで飯を脱塩後、洋菓子の材料として添加することで嗜好性の高い食品を調製することに成功した。
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