脂質は細胞膜の構成成分でもあり、摂取する食事の脂肪酸のバランスによって細胞膜リン脂質の組成が変わり、これが種々の疾病や機能発現につながる。本研究では、脂肪酸、特にドコサヘキサエン酸(DHA)に焦点を当て、疾病との関わりがあるプログラム細胞死に対する作用とそのメカニズムを調べること、そして、脂肪酸栄養の制御により新しい疾病予防が可能か否かを明らかにすることを目的とした。 炎症性サイトカインの腫瘍壊死因子(TNF)誘導のアポトーシスに対して、DHAは抑制作用を示した。これは、エイコサペンタエン酸(EPA)やアラキドン(AA)など他の脂肪酸には見られない特異的な作用であった。細胞内遊離脂肪酸と細胞死との関連を調べるために、100pmolレベルでの検出が可能なプレカラムHPLC法で定量を試みた。TNF刺激後の遊離脂肪酸量の変化は、このレベル以下であり、細胞内遊離脂肪酸レベルとアポトーシス誘導との関連性を示すには至らなかった。 次に、ネクローシスに対するDHA及び他の多価不飽和脂肪酸の影響について、L929細胞を用いた解析を行った。上記アポトーシスの場合と異なり、AAやDPA(22:5(n-3))等でも細胞死を抑制し、抑制作用の強さの順は、DHA>DPA(22:5(n-3))【greater than or equal】EPA>AA【approximately equal】20:3(n-6)【greater than or equal】22:4(n-6)であった。細胞膜リン脂質の脂肪酸組成を調べると、リン脂質中のDHA、DPAn-3、AAの増加が細胞死抑制に関連していること、そしてこれら3種の中で、DHAは細胞死モードにかかわらず、TNF誘導の細胞死を抑制することが明らかとなった。さらにDHAは、ネクローシスとアポトーシスに共通のシグナル伝達経路に関わっている可能性が示唆された。 以上の結果より、脂肪酸であるDHAのような栄養因子によりTNFが関与する疾病に対して予防や軽減が可能であることが示唆された。
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