昨年度は、溶解性で小麦タンパク質を塩溶性タンパク質、EOH可溶性タンパク質およびアルカリ可溶性タンパク質に分画し、各タンパク質特異抗体を調製した。B10.Aマウスを各分画タンパク質で感作して、各タンパク質を経口投与・運動負荷後のタンパク質の肝臓への進入程度を各タンパク質特異抗血清を用いて測定し、グリアジン次いでグルテニンが高いことを認めてきた。 一般に、アレルゲンとなりやすいタンパク質は塩溶性タンパク質であることが多い。グリアジンのように不溶性タンパク質が何故アレルゲンと成りうるのかを明らかにするために、今年度は、まずin vitroおよびin vivoでの消化性を比較した。グリアジンのペプシン次いでパンクレアチン消化性と、in vivoの消化性を比較すると、in vitroの消化性は低かった。そこで、ペプシン消化後胆汁を加えて次いで、パンクレアチン消化を行うと、グリアジンの消化可溶性画分は顕著に増加した。この理由は、生体内では胆汁酸の乳化作用で消化酵素とグリアジンとの親和性が高まることでグリアジンが消化性されやすくなる要因の一つであると考察された。次いで、3画分タンパク質をそれぞれ非感作マウスに経口投与し、消化・吸収性を実験したところ、グリアジンの経口投与によって小腸粘膜上皮組織の著しい損傷が実態顕微鏡で観察された。その部位は小腸上部から始まり、損傷割合は、全体の30%以上に達した。更に、組織切片のH-E染色によって絨毛の顕著な脱落を認めた。この結果は、セリアック病の原因タンパク質として報告されてきているグリアジン由来の特定ペプチドが小腸粘膜上皮組織に対する毒性作用を有することと相通じる現象である可能性が推察された。運動を負荷するとこの損傷はより重傷となることが確認された。
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